1.自動車コーティングあれこれ
1)自動車コーティングのプロとは?
自動車コーティングのプロとは、塗装表面に塗布されているアクリルのクリアーコート表面の傷消 しや下地調整に長けている技術者のことをいいます。彼らは、コート剤に関する化学的知見を有しているわけではありません。
コート剤の大まかな種類は、ワックス系(有機系)、フッ素系(有機系)、ガラス系(有機・無機ハイブリッド系/水性完全無機)の三種類に分類されます。特にガラス系と称しているコート剤は、Sio2(二酸化珪素)が含まれるものを指します。
コーティング技術者は、これらのコーティング材料メーカーあるいは販売業者の説明書あるいは指導に基づきコーティング技術を研鑽しており、その技術の高い技術者が「コーティングのプロ」と呼ばれます。
日本でコート剤開発を行っている企業はそれほど多くありません。特にガラス系と言われるハイブリッド系コート剤の多くはパーヒドロポリシラザン(SiNH)をベースとしており、原液をメーカーより購入し溶剤で希釈し自社ブランドとして販売しているものが多くあります。そのため、基本的な化学的知見がないままに販売しているメーカーの説明が、誤った知識としてコーティング業者に伝わり、それが一般化してしまうこともあります。
このような「一般的に言われるコーティングのプロ」は、本当のプロだといえるでしょうか?
2)コーティングを行う意義
そもそも、なぜ自動車にコーティングを行うのでしょう。自動車販売会社が利益を得るためにコーティングを顧客に推奨しているわけではありません。数十年の前より継続してコーティングビジネスが繁栄しているのは、それなりに理由があるからです。
元々、コーティングは、塗装の光沢を出す目的でワックス等高反射率の油性系を使うことから始まり、徐々にフッ素系、ガラス系へと変遷し現在に至っています。これは顧客の汚れ防止の要望を反映したもの、また供給側の市場拡大を狙った商品群拡大によるものと考えられます。
従来、コート剤についての知識や情報は、どちらかと言うとメーカーよりコーティング施工業者へ一方的に押し付けられたものという側面がありました。コーティング施工業者は、メーカーから与えられた材料と施工方法により施工技術を磨きプロの施工者となります。よって、コーティング業者は、自身の使用しているコート剤と施工方法が最も素晴らしいと認識していることが一般的です。
コート剤の良否は、コーティング直後の被膜の挙動により判断されます。そのため、メーカーや供給業者側もコーティング後のパフォーマンスを重要視して材料の開発を行っていると推測されます。
ここで、コーティングの本当の意義、ユーザーがコーティングに求める条件とは何か?コーティング技術者ははたして自動車ユーザーの要望に応えられているのか?について考えてみたいと思います。
コーティングに求められる主たる条件は、以下の三つです。
a. 塗装表面の状況を出来るだけ長く良好な状態に保つこと
b. 汚れを付着しにくくすること。簡単に洗浄可能にすること。
c. コーティングを施しても元の塗装の風合いを損なわないこと
3)既存のコート剤の特徴
それでは、先に述べた三種類のコート剤が、この3つの条件に着目してそのメリットとデメリットを考えてみましょう。
a. ワックス系(有機系)
■メリット
・油性で反射率が高いため、塗布すると極めて高い光沢を発し見た目には非常にきれいに見える。
■デメリット
・油性であるため、大気中の有機汚れが付着すると更に汚れが増幅される。紫外線により酸化し、汚れのもととなる。
・被膜表面は撥水である。
・効果持続期間が短いため、塗布後、適宜汚れたワックスを除去し再度塗布することが必要となり、非常に手間がかかる。
b. フッ素系(有機系)
■メリット
・ワックス系よりは汚れにくく、紫外線による酸化劣化現象が指摘されていたが、昨今大きく改善されている。
・効果持続期間はワックス系より長く、6ヶ月程度(メーカーや品種により異なる)
■デメリット
・油性であるため、大気中の有機汚れが付着すると更に汚れが増幅される。有機物は紫外線により酸化し、汚れのもととなる。
*被膜表面は撥水である。
・摺動摩擦にそれほど強度はなく、洗浄により被膜の劣化が起こりやすい。
c. ガラス系(有機・無機ハイブリッド系)
■メリット
・ワックス系やフッ素系に比べ、被膜の耐久性能は改善されている。
・SiO2配合により、汚れ防止効果がワックス系やフッ素系に比べ大きく改善されている。
・施工がワックス系、フッ素系に比べ非常に難しく、コーティング施工業者の技術が発揮される。(価格的に高価になる)
■デメリット
・ハイブリッドであるため、被膜表面は撥水となる。親水を謳うハイブリッドもあるが、基本的に、初期は界面活性剤等により親水効果を発現する。最近では、界面活性剤なしでも親水化表面を発現するコート剤も出てきており、それらの商品は有機溶剤比率が少ない。しかし、基本的には有機溶剤を使用しており有機溶剤が気化した後でもC(炭素)の骨格は被膜内に残留し、紫外線劣化の原因となる。
・多くのガラス系ハイブリッドは、二酸化珪素微粒子を溶液化するためにメタノールやアルコール等の有機溶剤に分散しており、特にパーヒドロポリシラザンはメタノールを溶媒として加水分解により被膜形成を行っている。(加水分解とは大気中の水分と溶剤が化学反応を起こして被膜を形成する作用であり、高湿度中や雨天での施工は困難で、施工後も被膜が硬化するまで水や湿度に曝露することはできない)
・被膜は硬化型。
・自動車の塗装の硬度は鉛筆硬度で2~3H程度であり、この上に鉛筆硬度が9H程
度のガラス被膜が付着した場合、大きな問題として、(1)自動車の走行時の振動、(2)夏・冬の塗装被膜の膨張収縮に対するマイクロクラックによる汚れ、親水が生じる。
・施工後1年程度で親水性を発現するがこれは被膜表面にマイクロクラックが発生した為と
考えら有れる。
・高湿度・雨天での施工は困難(水分と反応し白化現象が発生する)
・同等品が多く価格競争が激しい(原液の出所は同じと考えられる)
・クラックが発生すると、塗装のやり直しを行う以外に解決方法はない。
このように既存の自動車コート剤の特徴をレビューすると、メーカーや施工業者の立場を優先に開発された感が否めず、ユーザー本位とはいえません。